神戸地方裁判所 昭和25年(行)43号 判決
原告 吉村和勝
被告 兵庫県知事
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が昭和二十五年三月二十四日なした兵庫県武庫郡住吉村と神戸市との合併決定を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として原告は兵庫県武庫郡住吉村の村民であるところ、被告は昭和二十五年三月四日住吉村及び神戸市の合併申請を受理し同月二十日兵庫県議会の議決を経て同月二十四日その合併を決定したそもそも地方自治法第七條が市町村の廃置分合をその市町村の申請に基かしめている所以は最も利害関係をもつその市町村住民の総意を尊重せんがためである。しかるに前記住吉村の合併申請は同村当局の密行的な專断にいづるものであるから、原告は同村民有志と共に、同月四日地方自治法第七六條により同村議会の解散請求に着手しひいて合併の賛否を住民の総意に問わんとしこの旨兵庫県当局え通知し同月中旬頃には既に選挙権者総数の三分の一以上の議会解散請求者の連署を得たので当事同県議会及び同県当局えその旨連絡し、右合併に関する議決乃至合併決定の延期方を陳情した。
かような場合には、被告は須く、原告の同村議会解散請求の結果を俟ち右合併に関する同村住民の総意を表明せしめた後議案の付議及び合併決定をなすべきで、このことは地方自治の指導理念乃至地方自治法第七條及び第七六條の立法精神に徴し明白であるしかるに被告は敢えてこれをなさず、却つて右合併決定を急ぎ同月二十日同県議会の議決を経て、同月二十四日遂に神戸市と住吉村との合併決定をなし、原告が代表者となつて手続中の住吉村議会解散請求を不可能ならしめ、ひいて右合併に関する住吉村住民の総意を表明する議会を妨害した。
かような被告の本件合併決定は地方自治法第七條及び第七六條のみならず日本国憲法が基盤として採用する民主々義の精神にも反する違法の行政処分であるからこれが取消を求めるため本訴に及んだと述べた。
被告指定代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め答弁として被告は昭和二十五年三月四日なされた地方自治法第七條による適法な住吉村及び神戸市の合併申請に基き、同月十日これを兵庫県議会に提案したところ、同月二十日同議会は全会一致を以て可決したので、同月二十四日これが合併決定をなし、内閣総理大臣にその旨届出をしたものである。
而して、被告の右合併決定の時期の当否乃至は客観的妥当性の問題は全く被告の自由裁量に属し、原告の前記住吉村議会解散請求の存否により左右されるものではない。被告は右住吉村の合併申請を受理した後事案の重大性に鑑み、係員を同村役場に派遺しその合併申請の当否を実地調査させた結果適当と認め、前記手続を経て寧ろ愼重に本件合併決定をなしたもので何等の違法はない、即ち原告の請求は到底棄却を免れないと述べた。
三、理 由
被告が昭和二五年三月四日住吉村及び神戸市の合併申請を受理し、同月二十日兵庫県議会の議決を経て、同月二十四日その合併決定をなしたことは当事者間に争ないところである。
而して、地方自治法第七條によれば、市町村の廃置分合は、関係市町村の申請に基き、都道府県知事が当該都道府県議会の議決を経てこれを定め、内閣総理大臣に届出ることを要し且つこれを以て足るものとされている。こゝに「市町村の申請に基き」と云うのは当該市町村議会の議決を経た市町村自体の意思決定を意味し住民の直接投票等による総意を意味するものでないことは多言を要しない。
又、市町村の議会解散請求は、単に選挙権者の三分の一以上の連署あるだけでは足らず、その代表者から、その市町村の選挙管理委員会に対し、解散の請求をなし、その当否を選挙人の投票に付し、過半数の賛成のあつた場合、その選挙管理委員会が、その結果を公表した日において始めて議会は解散するものでそれまでは議会は有効に存続しその権限に属する議決をなし得るは勿論それまでに議会のなした議決が当然その効力を失うということもない。
従つて、現行法上は当該都道府県知事は関係市町村の前記要件を具備する合併申請がある以上その申請について住民の総意が問われているかいなかに拘らず合併決定を適法になし得るものと解するのが相当である。かゝる見解の下に、原告の主張事実を案ずるに、住吉村は同村議会において、神戸市との合併を議決し、昭和二十五年三月四日神戸市と共に被告に対し、本件合併の申請をなし、同日原告は同村議会の解散請求に着手し、その後三分の一以上の議会解散請求者の連署を得たので兵庫県議会及び県当局え連絡の上合併の議決乃至合併決定の延期方を陳情したるに拘らず、被告が合併決定をなしたというのであるから、その政治的当否は別として右合併決定に原告が主張するような違法があるとは断定し難い。
よつて、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 古川靜夫 谷賢次 谷口照雄)